Fibber boy

 

あいつは言う。

だまされる方が悪いと。

あいつは笑う。

うそつきだと知ってるクセにと。

いつから一緒にいるのかよく分からない。気がつけば私の隣にはあいつがいた。

よくうそをついては私を困らせるあいつ。それはどうやら一種の趣味らしく、騙されて怒る私にその顔がおもしろいと言う。

なんなんだそれは。変態か?エムか?

別に大きなうそでも、重要なうそでもないけれど毎日されてはどの言葉を信じていいのか分からなくなってくる。

一度狼少年の話を聞かせてみたが効果なし。

お前は俺の言うことを疑ったとしても絶対否定はしないからって。

結局信じて騙されるんだって言いやがった。

全く・・・どれだけ自意識過剰なの。

けれど悔しいことにあいつのその言葉は現在進行形で私自身が証明していて、次こそは否定してやると意気込んでも結局無駄に終わる。

あいつのうそはどうでもいい内容ではあるが巧妙で、自然のやりとりの中に埋め込まれているから本当の言葉と見抜けない。

あいつの言葉全てを否定すればいいだけのことだけれどそれはできない私。

「なー、今日一緒に帰るべ?」

「なにそのしゃべり方。きもい。なんのノリ?」

「うるせ、俺の行動にいちいち意味なんてねーんだよ。」

そういうこいつの言葉に私の胸の中が一瞬もやもや。

あれ?なんで?

スクールカバンに教科書を詰め込んでいると隣から声がした。

「どした?らしくねー顔して。」

「いや、意味わかんないんですけど。」

「なんか悲しげ。」

「気のせいだと思うけど?」

胸がもやもやしたけれど悲しいことはない。

「・・・・・・俺の」

不意に腕を掴まれた。

けっこう強い力だったから驚いて見れば整った顔が目に入る。

「俺の行動に意味がないって聞いてショックだったんじゃねーの?」

一瞬私の頬がこわばる。けれどすぐに反論した。ショックなんて受けた覚えはない。

「なに言ってんのばかじゃない?意味わかんない、離して。」

そう腕を離させようと力を入れるが動かない。

もう、一体なにさ?

「今まで俺がお前に構ってきたことに意味がない行動だったって思ってショックだったんだろ?」

「っ・・・!」

ずがん!と頭を殴られた気がしたような衝撃。

言われるまで無自覚だったとはいえ、まさに図星というやつ。

胸のむかむかがそういうことだと他人に言われて気づくなんて情けないけど、こいつの言うとおり。

こいつが無駄なうそをついて自分に構ってくることに特別な何かを感じていたから。

それが恋だとかいうものでなくてもこいつにとって私は他の女の子男の子と違う存在だと思っていたから。

自意識過剰なのは私のほう。

迷惑な行動だったとしてもこいつが私に構う事実に幸せを感じていた。

ただそれを意味のない行動だと聞いてショックを受けたのだ。

どんだけ乙女なの・・・自分。

「おーい。おーい。飛んでくなって。」

「あ、え・・・。」

「いやーそんなに見事なまでに嵌ってくれると気持ちいいモンだー。」

ものすごく嬉しそうな顔が目に入る。

満足した時の顔。

「あ・・・」

その顔は私が騙された時にする顔。

やーい騙されたといわんばかりな意地悪な顔。

「ず、ずるい!」

「騙される方が悪い。」

勝者の顔をして私の鼻を指で押した。

結構痛いんですが・・・。

「けどこんなの卑きょ・・・っ!」

罵声を浴びせようとした私の唇は目の前のこいつに塞がれて、言葉をさえぎられた。

すぐに離れたけれど私はぼーぜんとしたまま。

「好きだったけど、フラれるの怖いし。」

「な、な・・・・」

「お前騙されやすい単純っ子だけど妙なとこ分かりにくいし。ま、とりあえず・・・」


俺はお前好きだから


そう可愛く笑う彼の言葉に私は珍しく疑うことなく頷いた。

大丈夫。傷つけるうそだけはつかない人だ。

「で、一応聞くけど返事は?」

「勝手に確信持って、キスしといて今更聞くんだ?」

「聞きたいだけー。だめ?」

「・・・・・・すき。」

「聞こえなかった。もっかい。」

「うそつき。」

「お、初めて見抜いたな!」

「死ねバカ。」

「・・・愛してる。」

「きもい。」

「ひどい。」

こんなでもこんな居心地のいい場所を見つけられたのは幸せ以外の何者でもないと思う。

これからもよろしくね。―――Fibber boy。

 

 

.......fin