※ 漫画本来の設定とは違っています
今しがた運び込まれた少女が義体にされたと聞いたとき、ヒルシャーは激怒した。
ヒルシャーがその少女を助けたのは、殺戮人形を作り出すためではなかった。
ただ証明したかったのだ。
人間だって、捨てたものではないと。
汚れきった世の中でも、まだ救いがいのある人間だっているのだと、叫びたかったからだ。
だがその思いが、今度は多くの人を殺す機械を造りだしてしまった。
「そんなこと・・・許せるはずがない」
「では、あの義体は壊すか」
冷淡な言葉を吐いた隣の男を、ヒルシャーは断絶の思いで見つめた。
確かジャンという名前の男だ。彼は眉をピクリとも動かすことなく、ガラス窓の向こうを見ていた。
ヒルシャーもそちらに顔を向ける。
その窓の向こうには、一人の少女が横たわっている。
褐色の肌に、長い金色の髪。
肉体の改造手術を終えて、今はベットの上に放り出されている。
ヒルシャーは目を細めると、苦しげに顔を伏せた。
義体などの計画は決して賛成できない。
けれど、あの子を殺すこともできなかった。
それは、あの少女を救おうとして死んだ、ラシェルのこともあったし、
何より、何の罪もないあの少女が殺されかけ、さらに今もヒルシャーの意志一つでどうにでもなる命が、悲しかったからだ。
・・・いや、それともやはり、ヒルシャーは殺してやるべきなのか。
まだ人間でいられるうちに、死なせてやった方がいいのだろうか。
苦悶するヒルシャーの肩に、ジャンは手を乗せた。
「貴方が彼女の名前をつけて下さい。それだけで、良いんですよ」
ヒルシャーには、彼女を見殺しにはできない。
この男はそのヒルシャーの心の隙を見事につき、逃げ場を塞いだ。
ヒルシャーは目を閉じた。
“ トリエラ ”
その数日後に、彼女がつけられた名前。
少しでも長く生きてくれと、ヒルシャーは願った。
end/