女の肌を引き裂く感触。
その首筋に深く牙をたて、溢れ出る血の甘美さに酔いしれる。
「・・・零・・・っ」
腕の中で優姫が喘いだ。
その振動も心地よく響い。
止めようとしても、零は止められなかった。
優姫の血を求める自分の欲望に。
目の前が真っ赤になり、優姫の血がほしい、ほしいと貪欲な渇望が零を追い立てる。
零が自制で止められたときには、優姫はぐったりと零の腕の中で倒れていた。
ぐいと口元の血を拭う。
その残った血さえも、零は舌を出し、体内に吸収した。
ごめんとは口が裂けても優姫には言えない。
零はこの身のおぞましさに、恐ろしいまでの憎しみを感じた。
目を上げ零に焦点を合わせた優姫が、無理をしてニヤリと笑った。
「・・・もーっ、何て顔してんの、零」
「・・・。・・・優姫、大丈夫か」
「平気平気、全然平気だよ」
優姫が大丈夫でも、平気でもないことは、零が一番よく分かっている。
「ほらぁ、だからそんな顔しないでってば!辛気くさいよ、零」
両の手で零の頬を挟んだ。
優姫は零の目を真っ直ぐに見つめて、にっこりと微笑みさえした。
「言ったよね、私が、零をレベルEにはさせないって。もがけるだけ、もがこうよ。
それに、零はやっぱり、私の知ってる零のままだよ。ちゃんとした人間だよ」
そう。人間だった。
人間で、あったのに。
零は自らの唇にそっと手を当てた。
口から淫らに覗く白い牙、優姫の匂いが染み込んだ指先。
優姫が聞けば、彼女はどんな顔をするだろう。
零の中に・・・――この世で最もヴァンパイアを憎むはずの零、その人の中に、
優姫の首筋に牙をたてる刹那、血がしたたり落ちるその瞬間に悦びを感じている自分がいると言ったら。
愛しい女の血を求めるヴァンパイア。
その化け物の性を、零は強く意識した。
end.