かぜむすめ
常陸の国のとある城下町では・・・ものすごい速さで走る可愛い少女目撃されるという。
「みちさまっ・・・!!!」
ばぁん!っと引き戸が勢いよく開く。
あまりの強さに引き戸は跳ね返り、閉まろうと開けた本人に向かってもう突進。
しかしそれが体にぶつかる前にその少女は目の前で逃げようとする少年にフルアタック。
「みちさま・・・あいたかった!きのうの夜はさみしさで死にそうにっ・・・」
「いやいやいや、きのうもあったから!」
抱きつかれて頭を抱える少年、道昭(みちあき)は全力でそう叫んだ。
ことの始まりはそう・・・1年前の祭りの日・・・。
『とうちゃん!おれあっちのみせみてきてもいい?』
道昭少年、当時6才。
少し辺りが暗くなって、お祭りの雰囲気にはしゃいでいた。
『あぁ、すぐに戻ってこいよ。』
『おう!』
父親の元を離れて大好きなカラクリ人形売り場へ走る。
そのときだった。
ずざざっ!という音と共に少し離れた目の先に同じ年くらいの女の子が勢いよく転んだ。
今にも泣きそうな少女は小さすぎて周りは気づかない。
人にまぎれて今にも消えてしまいそうな可哀想な女の子。
昭道は走りよって、思わず手を差し伸べた。
それが台風人生を歩むことになるとは夢にも思わずに。
『えっと・・・だいじょうぶ?』
『・・・・ぐす。』
少しべそをかきながらも昭道の手を握った少女。
ふと手を見ればかわいい小さな手。
しかし違和感。
なぜならその手はこの町ではよほどの金持ち意外見かけることのない傷ひとつない綺麗な手だったのだ。
そのことに驚きつつも昭道は尋ねた。
『えっと、きみのおうちは?おくっていくよ?』
そう道昭少年が優しく問いかけた瞬間だった。
『・・・・な、なまえをおしえてください!!』
がしぃっと手を強く捕み、そう少女は目を輝かせて言ったのだ。
それはもう・・・ものすごい力とキラキラオーラで。
昭道は痛い痛いと内心思うがあまりの気迫にそう言えなかった。
『え、みちあきだけど・・・・。』
『みちあきさま、ね・・・!!』
『え、さま!?』
馬鹿でかい少女の声につっこむよりも慣れない様付けに驚くがそれ以上言葉をつむぐのは少女が許してはくれない。
『わたしさちっていうの!やさしくしてくれてありがとう!』
『え、あ、うん。よろし・・・』
『こういうのがうんめいっていうのね!』
『え?』
『うん、きめた・・・決めたわ!わたしみちあきさまのおくさんになる!』
『え、あ?はぁぁあ・・・!?』
『よろしくね!・・・みちさま!』
そうして悲劇の少年(?)、道昭くんはこの日めでたく婚約者ができました。
そしてもちろんこの暴走少女こそが三代目水戸藩主の末娘、幸姫様であることは後にわかること。
『うそだろ・・!』
・・・・・・・・ちょーん。