序、それは昔のこと



昔、ある島には清い水が溢れ出る「純蒼」と呼ばれる水の玉があり、その周りにはその水から出来ていた泉があったそうです。

そして不思議なことにその泉の水は人と動物たちの壁を無くす力を持っており、人と狼は互いに言葉を交わして共に仲良くつつましく生きていたといいます。

そのため、その島に生きる物達はその泉を山の宝としてとても大事に扱っていました。

そんなある日、島外から人間がやってきました。

彼らはその島の光景に驚き、水が溢れ出る泉に興味を覚えました。

穏やかな島の人間や生き物達はそんな彼らに攻撃することもなく、ただただ同じ毎日を暮らしていました。

しかし島外の人間たちが「純蒼」に振れることだけは許さなかったといいます。

そんな島の生き物達を彼らは疎ましく思い、また「純蒼」が欲しくなりました。

そして島の人間たちに言ったのです。

「貴方達のような人たちがこんな場所でのんびり過ごすだけだなんて宝の持ち腐れだ。人間の特権である知能を生かし、この島のみならずこの国を大きくする力になってみないか。」と。

そしてさらに言いました。

「この水の玉とてこのままこんな場所に置いておくのは勿体ない。もっとこの自然の恵を他の場所に住む生き物達に与えてやらないか・・・」と。

島の人間たちは考えました。

反対するもの、悩むもの、目新しい言葉に賛成するもの、島の外に興味を持つもの。

島の人間たちは話し合い、それはだんだん大きな亀裂を生み、やがて人々は真っ二つに分かれてしまいました。

島に残り、動物たちと今までどおりに共存を決めたもの。

そして島外の人間についてゆくもの・・と。

新しい世界に足を踏み出そうとした人間たちの人数は圧倒的でした。

その結果は狼を筆頭に動物達は嘆き、悲しませました。

また残った人間たちは彼らに怒りをあらわにし、山と「純蒼」を守るように山の中に住む場所を変えました。

そして彼らは山賊となり、島外の人間や離れていった人間たちを一切山の中に踏み込ませなかったといいます。

一方、島外の人間についてゆこうとした島の人間達は新たに分裂しておりました。

考え方に賛成はしたものの島を出るのを嫌がった者達と、島の外に出ようとした者達・・・と。

結果、三つの組織に分裂した島の人間たちはそれぞれの道を歩み、年を重ねるごとに大きな壁を作っていきました。

狼と共に生きる山賊は「葉狼」と呼ばれ、その山賊が住む山は葉狼山と名づけられました。

島に残ったものの人工物を用いる集団は「月影」と名乗り、一つの町を作り上げました。

本土に行き、人間の頭脳をフルに生かして動物との共存を阻んだ集団は人間の世界に溶け込んで「庵」という組織を作りました。

そうして月日は流れて現在・・・。

未だ島の山には葉狼が生息し、高い身体能力で山を守っているといいます。

月影と呼ばれた集団は月影本家を筆頭に島にいくつかの村や町を作り、島以外の人間を住まわせて島の発展に力を入れているようです。

組織庵は様々な技術を用いて人間が便利になるようにと力を入れる一方で未だ「純蒼」を狙い続けているそうです。

これはそんな山に生きる山賊と宝玉「純蒼」をめぐる物語・・・。