冬咲き桜物語 フユサキザクラモノガタリ
蕾 その風は違えど稀代な日
ピュウーっと北風がなる。
しかしいつもは家を壊さんばかりの勢いでやってくる北国の化け物は何を思ってか、今日は大人しかった。ゆっくりと風に乗り、白い化け物は銀色の地に舞い降りる。その姿はいつもとは一変して妖精のようだ。
そんな日の暁の時間に大きな産声が上がった。
少し冷たい空気と、温かい眼差しを受けながら生まれた子供は女の子であった。
和夜(わや)。
そう赤子は名づけられた。
ごうごうとなる生ぬるい風。
喧嘩好きな暴風は水しぶきを連れ、大きな岩を激しく打ちつける。
こんな寒い季節にどうしたことか。その地の人々は皆そう思う。
明るい色の花が咲く頃、よくこの台風という嵐はやってくるが花が静かなこの時期にやってくることはないというのに。
そんな日の真っ昼間に嵐にも負けない産声が上がった。
黒く力強い腕に支えられながら生まれた子供は男の子であった。
荒海(こうかい)。
そう赤子は名づけられた。
春風のようなふわふわとした風がまだすこし冷たさを持って町を流れる。
いつも夜とて静寂の言葉を知らないこの町が、今日ばかりはおとなしい。
男達はやはり落ち着くのは生涯の伴侶がいる小さなこの空間だとかみ締める。
女達もいつもと違い優しい夫にどうしたことかと嬉しそうに苦笑する。
そんな宵の時間に何の違和感もなく、町の雰囲気に調和するような産声が上がった。
小さな子供と両親に包まれながら生まれた子供は女の子であった。
幸空(ゆきそら)
そう赤子は名づけられた。
かさつく穂が一つとして揺れない無の風。
いつも厳しい自然が寝ているのか、否か。
この地の時が止まったような世界がそこに存在していた。
そしてまだ満月でもないのに月の光が今日は妙に明るい。
まるで今から月の使者がかぐや姫を迎えにくるかのよう。
竹取物語の世界に入り込んでしまったのではないかと錯覚させる。
そんな夜にこの村の静寂を破ったのは産声。
痛んだ布と白い玉のような肌という、正反対の感触に抱かれながら生まれた子供は男の子であった。
奇月(きつき)。
そう赤子は名づけられた。