お雛さま騒動!! 04
ショックといえば、かなりのショックだった。
ノストラダムスの大予言が外れたぐらいに、ショックだった。(本当に怖かったのに。)
だけど、最初はそれほどじゃなかった。
悲しみより怒りの方が、明らかに勝っていた。
本当に弥星と玖音の二人を、刻み殺しにしてやろうかと、腸が煮えくり返っていたのだ。
それは本当だ。
だけど、どんどん空しくなっていって、どんどん悲しくなっていった。
落ちていく気分はどうしても自分では歯止めがきかなくて、
あっという間にどん底な気持ちになっていった。
いつかのお誕生日に、大好きな姫からプレゼントでもらった手帳。
大好きな姫のお料理を忘れないために作った、お楽しみノート。
これが唯一、この欝の真っ只中にいる私を救ってくれる神の手だ。
「・・・・・グラタン、カルパッチョ、ナポリタン、エビフライ・・・・・・」
薄暗い部屋。倒れ込んだベッドのシーツは冷え切っていた。
視界がぼやけてくる。
字もよく見えないぐらいかすんで・・・・・・
泣けてきた。
「・・・・エビフライ・・・・・。」
許せたはずだ。
笑って、許せたはずだ。
いや、笑えなくても、許せたはずだ。いつものように。
何も彼らが、本当に嫌な思いをさせるためにしたことじゃないのは、知っていた。
今回は事故だ。
いつもいつも、いじめては来るが、彼らは一度たりとも本当に茄月の嫌がることをしたことはない。
私だって分かっている。
今回のことは事故だ。別にもういいのに。
仕方ないって思ってるのに。
どうしようもないことって、分かってるのに。
なのになのに。
うぅ・・・・・・。
ガヤガヤ・・・・・・・
茄月は、顔を上げた。
外が何か騒がしい。
目をこすって、茄月はそろそろと窓の近くへいった。
上からその広い庭が少しだけ見える。皆がいた。
雪合戦?
あぁ、やっぱり奴らは鬼だろうか。自分をのけ者にして、楽しんでるなんてそんな!
しかしよく見れば雪合戦なんてしてないのは、瞭然のことだ。
何をしているのだろうと思う。こんな寒い中。
顔を上げればまた、雪が吹雪いてきていた。
皆の頭が見えた。
姫と神無、兄さんの姿がある。
そしてあぁ・・・・やはり殺意が湧く。
この部屋にある物を何か、ぶつけてやろうか、弥星と玖音のも当然ある。
皆で何してるんだろう?
窓にへばりついてみる、と、庚も現れた。
大きな雪を転がしていた。その巨大な雪玉は庚の腰の高さぐらいはあった。
なんだろうあれは。
何かは分からないが、
・・・・・・ゆで卵みたいでおいしそう・・・・・・
・・・・・・って、はっ。
違う。
違う違う、違うっ!!
何をのん気にそんなことを・・・・・っ!
自分自身の能天気さに身悶えしながら茄月が頭を振っていると、
ちょうど外で顔を仰いだ庚と目が合った。
庚は茄月が自分に気がついたことを知って、笑顔で手を振ってきた。
茄月も頭を掻き乱していた手を止め、つられて彼に手を振り返しそうになり・・・・・・
ババッ。
壁の方に隠れる。一瞬にして庚たちのいる庭は見えなくなった。
広がるのは、明かりの点いていない自分の部屋だ。
そして、そこで。
「あっ。しまったっ!」
自分の失態に茄月は気がついた。
「しまったしまったしまったぁ・・・・・・・・っ。」
もしかして今の自分の行動は、俗に言う“無視”という類のものではないのか。
茄月は頭を抱える。
庚がせっかく手を振ってきたのに、それに応えずに隠れて。しかも今回のことは庚に関係ない。
弥星と玖音がチラリと、庚のせいにしていたが、
最初からあの二人から出てくる言葉なんて信用していない。
庚はきっと、毎度のこと巻き込まれただけなのだ
気が良いというか、弱いというか、無駄に謝らされていただけの、百パーセント無実の罪だ。
バツが悪いまま茄月は、チラリと窓の外を見つめた。
どうすればいいだろう。どうすれば、今の自分の行動を訂正できるだろう。
・・・・・・庚。
けれど茄月がもう一度窓から外をあおったときには、その庚の姿はなかった。いつの間にか他の皆の姿もない。
「・・・・・・アレ?」
まるで最初から存在していなかったように、誰もいない。声もしない。
・・・・・何やってたんだろう。本当に。
全員総出で何をして・・・・・・。
そこまで考えて、茄月はいささか機嫌が悪くなった。
自分一人がのけ者である。確かに、こうやって自室に閉じこもっている自分が悪いのだが。
「ふふんっ。いいもんね、別に。」
強がりを言ってみても虚しい。部屋には彼女一人だけだ。
少しそれが寂しく感じたけれど、茄月は頭を振ってベッドに戻った。
「私にはコレがあるもん。」
そう言って、お楽しみ帳を持ち上げる。
「・・・・グラタン・・・・エビフライ・・・・・次のご飯にエビフライが出るまで、
アイツらなんて許してやるもんか・・・・・。」
← 戻 →